とある魔術の禁書目録二次創作「そんなあなたに恋をした」 後編

*注意*

・拙作は、とある魔術の禁書目録の二次創作です

・CPは上条×黒子です

・文章力が残念なのは実力不足です

以上の点が許せる方のみ、下へとスクロールしてください

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
前編
 
 
 
 
 学園都市は、外に比べると科学技術が二、三〇年進んでいるとされている。
 それ故に現在上条がいるゲームセンターにも、外にはないようなハイテクなゲームが数多く設置されている。だがそれでも需要というものはあるようで、外のゲームもレトロゲーム ( 、、、、、、 )としてここに置かれている。
「ひさしぶりにこういうのをやると、やっぱ腕が鈍ってるってのがわかっちまうな」
 上条も、ひさひざに格ゲーでもやりますか、とレバーを握った。だが結果は芳しくなかったらしく、しきりに首を傾げていた。
「最近のは体感格闘が主流だし、コマンド入力式は継続的にやってないといけないのが、貧乏学生な上条さんにとってはつらいところですよ」
 財布の中身を圧迫する食費とその原因を思い浮かべ、ほろりと涙する上条。その背には高校生らしかぬ哀愁が漂っていた。
「でもまぁ、暇は潰れたし。……そろそろ帰りますか」
 ある程度は満足できたらしく、足取りも軽く家路へとつく上条であった。
 地下街から出て、今晩の献立は何にしたものかと悩んでいた上条だが、ふと路地の方へと目を向けた。あまり目立たない、ともすれば見落としてしまいそうなその空間だが……、何故か気になった。上条はゆっくりと路地裏の方へと入って行く。ふいに、微かに誰かの争う声が聞こえた。その瞬間、上条は走り出していた。
 
 
 
 
 路地裏。
 建物と建物との間の狭い道を入り込んだ場所。表通りに面してないその空間は、古来よりカツアゲなどを筆頭に大小問わず犯罪が行われてきた現場である。
 白井はまさにその路地裏にいた。
 数人の男達に囲まれ、
(全く、何でこんなことになったのでしょう?)
 ひっそりとため息をついている。
 事の発端は、白井が上条を探している途中で一人の男にナンパされたことであった。初めのうちこそきちんとお断りしたのだが、あまりのしつこさに辟易した白井がその男を適当にあしらった。すると陰で見ていたのか、その男の仲間と思しき男達に囲まれ、ここまで連れ込まれたのだ。
「大丈夫だよ、お嬢ちゃん。痛いのは最初だけで、すぐに気持ちよくなるからさ」
 そんな使い古された言葉を言い、男達は下卑た笑い声をあげた。
(今どきこんなわかりやすいのも少ないでしょうに。……はぁ、しかたありませんわ)
風紀委員 ( ジャッジメント )です。わたくしが何を言いたいか説明する必要はおありですの?
 そう言って白井は腕章を取り出し、ひらひらと男達に見せつけた。それまでにやにやと笑っていた男達の顔が瞬時に強張る。
「おい、誰だ。あいつを連れてきたのはッ!」
「だからあんなチビは止めとけって言ったんだよッ!」
 こめかみにピキリと青筋が立つのを感じた。
 男達がぎゃあぎゃあと騒ぎ出すのを一瞥し、
「仲間割れをする余裕がおありですの? そう思ってらっしゃるなら――それはわたくしに対する侮辱ですわ!」
 金属矢を取り出し能力で投擲、瞬時に二人の男を無力化する。あまりの早業に男達は呆気にとられるが、次の瞬間には怒号をあげて白井へと襲いかかってきた。
「――ふッ」
突っ込んできた男に足払いをし、上空へと転移、地面に叩きつける。同じように何人かを叩きつけたところで、少し離れたところに立つ男が白井の目に入った。
「あなたで最後ですわね。おとなしく投降することをおすすめしますわ」
 男はにやりとした笑みを浮かべた。
「ふん、そいつはどうかな」
「何を言って――ッ!」
 白井は男の態度に疑問を感じながらも一歩近づこうとしたところで、背後から別の男が鉄パイプを振りかぶっていることに気づいた。それでも白井は、落ち着いて空間移動 ( テレポート )の計算式を頭に浮かべる。ギリギリだが間に合わないことはない。
 が。
白井は視界の端で、男の笑みがさらに深まったような気がした。
空間移動 (テレポート)を発動するには、一度一一次元の空間把握を施す必要がある。この演算には、無論多大な集中力が必要ということだ。つまり発動を中断させるには、その集中を乱してやればいいだけだ。
 
パァン!
 
「――ッ!?」
 突然の爆発音に気を取られ、白井は組み上げていた計算式を放棄し、その場で硬直してしまう。視界の端に爆竹を鳴らした男の姿が映った。
(しま――ッ!?)
 気づいた時には、鈍器がうなりをあげて迫っていた。
 
 
 
 
 見たことのあるツインテールの少女。
それが路地裏に着いたときに、真っ先に上条の目に飛び込んできたものだった。続いてその少女に鉄パイプを振りおろそうとしている男が目に入った。
「うぉぉおおおお――ッ!!」
 気がついたときには体が動いていた。両腕に激痛、右手には鈍い感触、そして目の前には吹っ飛ばされた男が転がっていた。
「くそッ」
 奥の方にいた男は、突然の闖入者に驚きながらも慌てて逃げ出そうとする。それを見た上条は傍らの少女に向かって叫ぶ。
「――、白井!」
 気が抜けてぺたりと座りこんでいた白井だが、その声にビクリと反応すると男の頭上に転移し、
「――ッ、これで、最後ですの!」
 男の後頭部に渾身のドロップキックを喰らわせた。
 
 ゴキィ!! という轟音と共に前方へ吹き飛んだ男を見て、
「あー、ありゃ痛そうだな」
 上条は、自身も喰らったことがあるそれの威力を思い出し、男に心の中で合掌した。
 
 
 
 
 気がついたらまた助けられていた。
 迫りくる鉄パイプに半ば思考を放棄していた白井の視界に、見知った少年の姿が映った。振るわれる暴力に対し、その少年がとった行動は至ってシンプルなものだった。
 ゴッ!! という鈍い音。少年が両腕をクロスし、鉄パイプを受け止める。そして、本来なら痛みで動かせないはずの右手で、その男を殴り飛ばした。
 が。
 白井は見てしまった。男を殴ったときに少年の顔が激痛で歪むのを。
以前助けられたときとは違う。確かにあの時は、今の状況とは比較にならないほど危険だった。だが結果的に見れば、白井こそ負傷はしたが、それを助けに来た少年が怪我を負うことはなかった。
だが今回は怪我をさせてしまった。自分の油断によるミスで。
(……最悪、ですの)
 もう一人の男もなんとか確保したものの、白井の表情は暗いままだ。
「大丈夫か、白井?」
 上条が心配して顔を覗き込んでくる。白井は顔が熱くなるのを感じた。
(……やっぱりわたくしはこの殿方のことが――いえ、あの方にわたくしはふさわしくありませんの。わたくしは、助けられてばっかりで……怪我までさせて――)
「し、白井! やっぱり怪我でもしたのか!? どこか痛いのか!?」
 上条が慌てて声をあげる。白井がふと気付くと、何かが頬を流れるのを感じた。白井は上条から顔を逸らし、懺悔をするように呟いた。
「――わたくしは、やっぱりだめですわね」
「何を言って――」
「あなたに怪我をさせましたの!!」
「……ッ」
 叫んでいた。
 大粒の涙を溢れさせて。
 みっともない、白井はそう思ったが、涙は簡単には止まってくれない。自分の不甲斐無さが死ぬほど悲しく――、そして悔しかった。
「わたくし、は。いつ、も助けられ、てばかりで。何の、役にも立っ、てません、の」
美琴達の戦っている場所へ追いつくと決意した。そんな自分の目指す場所が一段と遠のいた気がした。
 
「……ふざけんじゃねえぞ」
 
「――え?」
 ふざけるな。
そう、思った。
 御坂のために、一人の敬愛する先輩のために、あれほど真剣になれる少女。
そんな彼女の行為を否定したくなかった。
自分で否定してほしくなかった。
だから、上条は白井に言い放つ。
 
「俺達は、白井を――白井黒子を助けたかったから助けただけだ。それにお前が役に立ってない? ……そんな幻想は俺がぶち殺してやる!!」
 
 白井は、そんな少年の言葉に、一瞬だけキョトンとした顔をする。
 そしてその言葉に、自分が求めていた答えがあったことに気づいた。
「……やっぱりあなたは馬鹿、ですわ」
 そう、小さく零す。
「ちょ、それはあんまりなお言葉ではございませんか!?」
 少年が慌てる様を見る。とっくに、涙は止まっていた。
「そういえば名前を伺っていませんの」
「あー、そういやそうだったな」
 ずっと気になっていた。少年は白井の名前を知っている。だけど白井は少年の名前を知らない。理由は簡単、白井が上条に対して何の興味も抱いていなかったから。
 だから聞いてなかった。
「では、教えてくださいません?」
 じゃあ、今は?
「上条、上条当麻だ。……よろしくな、白井」
 それを聞くのは野暮なことだろう。
 白井は満面の笑みを浮かべて、
「よろしくお願いいたしますわ。上条さん――、いえ当麻さん」
 その言葉を聞いた上条は慌てながら、
「じ、女子中学生に名前で……ッ。流石にそれはハードルが、ってこんなとこあいつらにみられてたら――ッ」
 普段は冴えない、ただの少年。
 だけど白井は知っている。
(わたくしは……、)
 助けられた時に見た顔。真剣な表情。
思わず魅了されてしまった。
(全く。あの表情で今まで何人の女性を落としてきたのでしょうか?)
 でも、
 それでも、
(わたくし、負ける気はありませんの。……たとえ、相手がお姉様だとしても)
 白井黒子は宣言する。
 静かに。
 密やかに。
 されど高らかと。
 
 このときからかもしれない。
 のちに白井黒子はそう語る。
「わたくしが当麻さんに恋をしたのは……そう、確信したのは――」
 
 Fin
 
 
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