クリスマス用二次創作(とある魔術の禁書目録)

CP:上条×吹寄の二次創作です。

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では、どうぞ。













とある魔術の禁書目録二次創作「そして彼女は微笑んだ」

 聖誕祭(クリスマス)。
 本来キリストの降誕を祝う祭日であったはずだが、いつの間にかもともとの起源とは異なった行事として認知されている。正しく聖誕祭を祝うものは、神へと祈りをささげるであろう。
 が。
 日本という極東の島国ではそんな認識はなく、自らの恋人やパートナーとともに過ごすのが一般的である。そして独り者は寂しく夜を過ごすのが世の常なのだ。
 そんな悪しき伝統は学園都市でも同様に行われている。恋する学生たちはピンク色の空気を辺りに撒き散らしながら腕を組み、うっかり外へ出てしまった相手のいないものたちは、居心地の悪そうな顔をして道の端のほうをこそこそと歩いていく。
 そんななか、上条当麻はとある少女との待ち合わせ場所へと急いでいた。
「あーちょっと遅れちまうかな」
 心なしかその歩みを小走り程度に速める。
(とはいえ待ち合わせまでには、まだ一時間くらいあるんだけど……でもまぁもう来てるんだろうなぁ)
 雪こそ降ってはいないものの、こんな寒いなか待たせるわけにはいかないだろう。これでも上条当麻は紳士である。
 今日は十二月二十五日。
 そう、恋人同士でいちゃいちゃする日である。それは不幸少年・上条当麻とて同じなのだ。旗男(フラグメイカー)としての名をほしいままにしていたのは、すでに過去の話である。色々と――そう、色々とあった一端覧(いちはならん)祭(さい)から一か月。数々の騒動を超えて上条の隣を射止めた少女がいた。
 と。
 待ち合わせ場所へと到着した上条が、自らの選んだ少女へと声を掛ける。
「悪い、待ったか?」
 少女はその長い黒髪をさらりと揺らして振り返り、

「…………、今来たところよ」

 寒さで赤くなった頬を緩め、微笑みを浮かべた。
「それにしても、その科白は普通私が言うものじゃないの?」
 少女が悪戯っぽい笑みを浮かべると、
「うっ……ぜ、善処します」
 上条は申し訳なさそうな顔をする。捨てられた子犬のような表情をする上条を、かわいいと思いながら少女は、
「悪いと思っているなら、態度で表したらどう?」
 自らのチャームポイントである『おでこ』を少年のほうへ差し出す。
「…………。ここでやれ、と?」
 上条は目の前にいる少女におそるおそる問いかける。
「当たり前じゃない」
 そんな上条の問いは、少女の笑みによってばっさりと切って捨てられた。しばらく逡巡していた上条だったが、諦めたように首を振り、
「それじゃ、吹寄」
 自分の彼女――吹寄制理――のおでこにキスをした。




 対カミジョー属性。
 それは、美人なのにちっとも色っぽくない鉄壁の女という異名とともに、吹寄制理の代名詞であった。
 が。
 そう呼ばれていたのも過去の話である。今の彼女に、そう呼ばれていた面影は――すでにない。学園都市最後の砦と言われていても、上条当麻の前では意味をなさなかったようだ。
 そして上条は知らない。吹寄制理がデートをするたびに、約束の時間よりも早く来る理由を――なにかと理由をつけて、でこちゅーをしてもらうためだということを。
(でも、そろそろそれも無理になるかもしれないわね)
 今日は本当に全然待っていないのだ。せいぜい待ったとしても一分ほど。実は上条を待ちながらそわそわしている時間が割と好きな吹寄にとって、これは由々しき事態である。
(今度はもっと早めに来ないと駄目ね)
 そうでもしれないと、今度は上条を待たせることになりかねない。そうなったら吹寄の楽しみがなくなってしまう。
 もっとも上条も、頼めばでこちゅーくらいしてくれるだろうに。それがわかっているのに、なにか理由がないとそういう行動を起こせない吹寄も、大概いじっぱりなようだ。
 と。
 カップルだらけの街中を歩く二人だが、上条のほうは若干居心地が悪そうにしている。
 そんな上条の肩を軽く小突きながら、吹寄は鈍感な彼氏と素直になれない自分に対し、ひっそりと溜息を吐いた。




 上条と吹寄は夜の道を歩いていた。
 二人はいつものようにいろんな店を冷やかし、一緒に昼ご飯を食べた。途中で入った喫茶店で、吹寄が顔を真っ赤にしながら頼んだ『クリスマス限定! 恋人同士で食べようぜんぶ』なる巨大パフェを二人でつつき、自棄食いに来ていた独り身の女子学生たちは、その空気の甘さに砂糖を吐いていたほどだ。
 楽しい時間はすぐ過ぎる。
 デートを終えた二人は並んで歩いている。その間は、手がつなげそうでつなげない微妙な距離。吹寄はその距離感に一抹の寂しさを感じたが、相手が上条なので仕方がないといった感じである。
「それにしても今日は寒いな」
 そんなことを考えボーっとしていた吹寄は、上条の唐突な言葉に反応できなかった。
「んー? 大丈夫か、吹寄?」
 いきなり顔を寄せられマジマジと見られる。バッと物凄いいきおいで顔を離すと上条はキョトンとした顔を浮かべる。
「なんか顔赤いし、熱でもあるのか?」
 今度は本気で心配された。
「大丈夫よ。ちょっと考えごとをしていただけ」
 貴様の所為で顔が赤くなったのよ、とは言えない。第一恥ずかしいから。
 一か月。
 上条と吹寄が付き合い始めてから経過した時間。それなのに、この二人は前とさほど変わっていないようである。
(私は、本当に上条と付き合っているのよね?)
 吹寄の脳裏にはこの疑問がよく浮かぶ。鈍感な所為なのか、上条の態度は付き合う前と後であまり変わったところはない。このことが吹寄に『上条当麻と付き合っている』という事実を疑わしいものだと思わせているのである。
 多くの恋敵との争いの末勝ち取った上条の隣、ここはいまだに数多くのものたちから狙われている。
 だから不安になるのである。上条は本当に自分を好いているのか、自分を捨てて他の女性の元へ行かないか、と。
(貴様がそんな態度だから私も……)
 吹寄も最初はつまらない意地を捨て、上条に甘えてみようと考えていた。
 が。
 上条の態度が変わらないことに戸惑い、その意地を捨てきれないでいた。なにかしら理由をつけないとデートにも誘えない。今日だってそうだ。
 上条は、吹寄が求めれば応じてくれる。だが、上条自身からは何もしてこない。これは吹寄にとって悲しいことだ。
(寒いって思うなら手ぐらいつなぎなさいよ! なんでわざわざ手袋をしてないと思ってる訳?)
 ポケットに突っ込まれた上条の手を恨めしそうに睨む。そんな吹寄の想いは澄んだ夜空へと吸い込まれていった。




 上条当麻も、吹寄制理との距離感をとりあぐねていた。
 一端覧祭(いちはならんさい)のときに告白されて付き合いだした。きっかけは些細なものであったが、吹寄を好きだという気持ちに偽りはない。
(でもまぁ、具体的に何をしたらいいのかがいまいちわからないんだよな)
 いかに死線を潜り抜けてきた上条といっても、こういう経験は今まであった試しがない。だから何をすべきかがわからないのだ。吹寄が提示してきたものならば問題はない。しかし自分から何か行動を起こすといったことができないのである。
(それにしても……このままじゃマズいよなぁ)
 上条は彼なりにこの事態に危機感を抱いている。何だかよくわからないが、焦燥感が身体を駆け巡っていくのを感じた。
 ふと、吹寄のほうを見る。
 クラスの中では高いほうである身長。スタイルのよい肢体。そして羽織っているコートの上からもわかるほど盛り上がった女性の象徴。長い黒髪は耳に引っ掛けるように分けられ、おでこが大きく見えるようになっている。そして整った顔。
 ジッと見つめる。
 不意にある感情が上条を支配していく。

『愛おしい』

自分の彼女はこんなにも綺麗で、たまらなく抱きしめたくなる。
(ふわーやっぱり吹寄は美人だなぁ。スタイルというか胸がこうって――いかんいかん)
 しかしすんでのところで自己を抑える。雑念を払うように首を振る上条を、吹寄が不思議そうな顔で眺めていたが、彼はそのことに気付かない。
 
『抱きしめたい』

『キスをしたい』

 甘美なる欲望が上条の脳裏をよぎる。しかし――、その一線を越えることができない。
 ひとり唸り始めた上条を見て、さすがに心配に思ったのか、
「どうしたのよ。何か言いたいことがあるならはっきりと言いなさい!」
 吹寄がそう声をかける。
 吹寄自身も、上条が急に黙り始めたので焦っていた。だから少しキツめの言葉を使ってしまったのだが、
「え、いや、吹寄を抱きしめたいなぁとかそんなことは思って――、」
「――――ッ」
 自分の欲望と闘っていた上条は、不意に声をかけられた所為で、考えていたことを喋ってしまっていた。しかし彼はそのことに気付いていない。
 一方の吹寄と言えば、上条の言葉に顔を真っ赤にさせていた。
 あまりにストレートな欲求に吹寄の思考回路は焼き切れる寸前であった。
「で、貴様は何を躊躇っているというの?」
「あー、いきなりそんなこと言ったら吹寄が嫌がるかと思って――って今思ってたこと口に出してましたか!?」
 吹寄が真っ赤な顔で肯定すれば、上条は自分の失敗に顔を青くする。
「まっ、待って吹寄さん! これは決して邪な思いがあっ――――った訳だけど……お、怒っていますよね?」
 ズザァーッ!! と〇・二秒で土下座を完了させる上条当麻。そんな彼氏の姿を見て、吹寄の怒りが臨界点を迎える。
「怒ってるわよ!!」
 ヒィィィ! と土下座のまま身を竦ませる上条。
「何で貴様がそんな遠慮をするのかってことに怒ってるわよ! 私と貴様は……そ、その……こ、恋人でしょう!? だったら、何でそんなことでいちいち悩んでいるのよ!? そんなに私のことが信用できない!? 貴様の、上条の――――と、当麻のことが好きな私がそんなに信じられない!?」
 最後のほうは涙交じりになりながら、そう叫ぶ吹寄。そんな彼女を見て、上条は自分の考えが愚かであったことを悟った。
 ゆっくりと身を起こす。身体に付いた泥を叩いて、上条はそっと吹寄を抱きしめた。
「すまん、吹寄。俺が馬鹿だった。自分が嫌われないように憶病になって、吹寄につらい思いをさせていたんだな」
 吹寄も上条にギュッと抱きついた。その際、ムギュ! っとある部分が強く上条に押し付けられたのだが、上条は今度こそ自分の理性を総動員してそのことを無視した。
「当麻ぁ……。寂しかったのよ。当麻が何もしないから、私はもしかしたら嫌われているのかもって」
 上条はそんな彼女を見て、ある欲望が自分を塗りつぶしていくのを感じた。以前は気が付いても押し殺していた願望。
が。
今度は我慢をしない。それをしたら嫌われる、そんなくだらない幻想は、彼女が壊してくれたから。
上条は吹寄をしっかりと抱きよせて、耳元でこう囁いた
「なぁ、吹寄。……いや、制理。――キス、してもいいか?」
 そんな上条の言葉に、吹寄は嬉しさが込み上げてくるのを感じた。本当はそんなこと聞かずにしてほしかったが、それは後々に期待しよう。吹寄は上条から少し身体を離すと、

「当たり前じゃない」

まるで一輪の華のような可憐な笑みを浮かべ、その瞳を閉じた。


Fin


























以下蛇足的なおまけ。


~敗北者たちの宴~
 某所。
 上条と吹寄が手を繋ぎながら歩いているのと同時刻。
 そこに彼女たちはいた。
 そこは、死屍累々と言った様相がぴったりな感じのカオス空間であった。安全ピンだらけの修道服姿の少女と巫女服の少女が折り重なるように倒れ、茶髪の同じ顔をした少女たちも互いに寄りかかるようにして眠っている。そしてちゃっかりとその間に挟まったツインテールの少女。
 一升瓶を抱えながら、ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ、と虚ろな目で何かを呟いている少女。妙に露出度の高いメイド服を着ている少女。
 誰が持ち込んだのか、アルコール度数の高い酒の瓶やら何やらまでもが転がっている。
 その夜、ここで何が行われていたのか。それは当人たちの胸の中に仕舞っておくことにしよう。
 このクソッたれなクリスマスの夜に、やることなんて決まっているだろうから。