クリスマスSS

昔どこかにあげた過去作ですが、こっちにはアップしてなかったので。






『二人だけの散歩道』



「…………さむい」

しんしんと雪が降る夜に、僕は待ち合わせスポットとして有名である広場にいた。
――じゃあ誰を待っているの、だって?
まったく、野暮なことを聞いてくれるなよ。
 
ちらり。
時計を見上げる。
――待ち人、未だ来たらず。
 
「雪が降るって知ってたら手袋でも持ってきたのに」
赤くなった手を擦る。
家を出たときには降ってなかった雪がはらはらと落ちてくる。
踊るように、舞うように。

ふと――、遠目に人影が見えた。
頭から伸びる二本の髪。
 
――待ち人、来たれり。
 
僕はいつの間にか肩に積もっていた雪をそっと払って、彼女の方へと歩きだした。

「待ったかしら?」
寒さで頬を少し赤らめた彼女は、いつにもましてかわいい。
「……待ち合わせの1時間前に来たひとの言葉じゃないよね、それ。僕とのデート、そんなに楽しみだった?」
「な、なに言ってんのよっ! そんなわけないじゃない!」
その顔を、今度は違う意味で赤らめる。
「あ、貴方を待たせたら悪いから早くきたのよ。……でも、遅かったかしら?」
羞恥に染まっていた顔から一転……彼女の顔が少し陰る。
僕はそんな顔は見たくない。
だから、僕は満面の笑みでこう告げるんだ。
「そんなことはないさ! 僕も今来たばっかりだよ。もちろん、寒いなかで君を待たせたくなかったし、なにより君とのデートでうきうきしてたからね」
「な、なに言ってるのよっ!」
ああ、照れて怒った顔もかわいい。
真っ赤になって、うーうー唸ってる彼女を見て、本当にそう思う。
でも――――、
「じゃあ行こうか。ずっとここにいるのもなんだし、いいかげん寒いしね」
「うんっ」
返ってきたのは満面の笑顔。
それだけで僕の心が暖かくなる。
ああ、やっぱり。
笑顔の彼女がいちばんだ。
 
 
~~~☆~~~
 
 
「ちょっと疲れたね、どこかで休もうか」
あれから街に出て、いろんなところを回った。
夕食も済ませて、今は街外れにある公園で散歩中。
「ね、ねぇっ」
ベンチのあるところまで来たところで柚華が僕を呼んだ。
「ん? なんだい?」
なんだかもじもじしてる。
――かわいい。
「あのっ……そのっ……うぅー」
睨まれた。
全然怖くない。むしろお持ち帰りしたいくらい愛らしい。
「どうしたの?」
うーうー唸っている柚華を見て、少し前にも見たなぁ、などと思いつつ首を捻る。
「うー……こ、これっ!」
「んんー?」
彼女が差し出したものは、綺麗にラッピングされた袋。
それを受け取る。
「開けていい?」
こくん、と頷く。
まるで小動物のような仕草に胸がざわつく。
「…………ほぅ」
 
マフラーだった。
 
「手作りで、そんなに上手くないけど」
確かに少しいびつで、ひとりでつけるには少し長い。
でも、それは関係のないこと。
「ありがとう、最高のプレゼントだよ」
なにより、君に貰えたことがいちばん嬉しい。
「そう、よかった…………で、でもせっかく私が縫ったのよ、ありがたくつけなさい」
「じゃあ、ありがたーくつけさせていただきます、お嬢様」
つけてみた。
暖かい。
でもやっぱり、少し丈が余るな。
「とりゃっ」
「ひゃわっ!?」
彼女にもマフラーを巻き付ける。
さすがにふたりには短いので、自然と密着する形になる。
「な、なななな……」
僕の不意打ちに驚いたのか、とてもあわあわとしている。
サンタの服のように真っ赤な顔が、すぐ隣にある。
「なにしてるのよっ!?」
「まぁまぁ。いいじゃない、暖かくて」
ついでに手も繋いでみた。
二人の手は、少し冷たい。
だから、僕のコートのポケットにまとめて押し込んだ。
「ほら、これでもっと暖かいでしょ?」
「…………」
彼女は顔をさらに赤く染めて俯いてしまった。
 
――ねぇ、お願い。顔をあげて。その愛おしい顔を、もっと僕に見せて。

心の声が通じたのか、彼女が顔を上げる。
未だに顔は赤く染まっているけれど、本当に綺麗な笑みを浮かべていた。
 
「――私、貴方のことが好きよ」
 
唐突に、愛しいひとが囁く。
その声は、少しこそばゆくて……本当にうれしい言葉を紡いでゆく。
 
「僕もだよ」
 
「――私、貴方のことが大好きよ」
 
なんて愛おしい。
暖かな何かが心を満たしてゆく。
 
「僕もだよ」
 
「――私、貴方のことを愛しているわ」
 
ああ、君はいつも僕にとって最高のことをしてくれる。
だから僕も応えなくちゃ。
彼女を抱きしめる。
強く、強く。
でも、優しく。
「あっ……」
吐息が、小さな口から漏れる。
 
「僕も……君を愛している」
 
それはもう、狂いそうなほどに。
そんな二人の、寄り添った影は……ゆっくりと近づき、そしてひとつになった。
 
 
~~~☆~~~
 
 
「ねぇ」
「なによ?」
ああ、素に戻ったらこれだ。
でも、こんな彼女も愛おしく感じてしまうくらい、彼女にやられているみたいだ。
「ちょっとさ、散歩しない?」
「今してるじゃない」

だから、告げよう。
僕の願いを。

「そうじゃなくてさ」
「だからなによ」

ああ、本当に。
これほどまでにひとが、彼女が愛おしい。
 
「もっとゆっくり、もっと永い時間を掛けて――」
 
君は、この言葉の意味がわかるかな?
わかってくれるかな?
そして……受けとってくれるかな?
 
 
「――散歩をしよう。ちょっとそこまで、一緒に歩こう。半世紀くらい時間を掛けて、一緒にゆっくりと歩いて行こう」
 
 
君は……笑ってくれるかな?
 
 
FIN