とある魔術の禁書目録二次創作「名前で呼んで。と彼女は言った」

本ブログ初めての投稿です

どうもえんぴつです、こんにちは


*注意*

・拙作は、“とある魔術の禁書目録”の二次創作です

・CPは上条×姫神というマイナーな、えんぴつ得となっております

・拙作は、ネタバレを含んでおりますので、アニメ版しか見ていない方は注意してください


以上の点を了承して頂ける方のみ、下へとスクロールしてください


















では、どうか拙作をお楽しみください




とある魔術の禁書目録二次創作「名前で呼んで。と彼女は言った」

突然ではあるが、上条当麻は入院中である。
とある夏の日――ひとりの修道女が空から降ってきた日――あの日から、彼の入院数はうなぎ昇り、連日ストップ高といった状態だ。
そして、今日も今日とて、起きたら見慣れた天井――しかし自分の部屋のではない――が目に入った。
自分がふかふかのベッドの上にいるのを確認して、上条は、そこがいつもの病室だと気付いた。
(そういえば、カエル顔の医者が『君はしょっちゅう入院しに来るからね、ここは君専用にしたんだよ?』とか言ってたんだよな……)
上条がまだ違和感の残る身体――痛みはないが、有り体にいえばだるい―― を起こすと、タイミングを見計らっていたかのように、カエル顔の医者が部屋に入って来た。
「やぁ、起きたのかい?」
「いや……見ての通りですけど」
「しかし、君は今度は何をやったんだい? 全身打撲の上に手足に至っては今にももげそうな状態だったんだよ?」
「…………」
上条は何も言えない。
あまりにも酷い自分の状態を聞いて、開いた口が塞がらないようだ。
「で、でも今はちゃんと動いてますよっ!?」
「うん、君が今にも死にそうだったからね。こっちも慌てて色々やったんだよ? それでもそこまで治るまでに三日はかかったんだけどね?」
「三日……」
カエル顔の医者は『それはもう、大変だったんだよ?』と言う。
(でも、それほどの怪我が三日で治るほうが大変なことじゃ……ま、まぁ気にしないほうがいいか)
上条がひとりで納得していると、
「ま、あと二、三日は安静だからね? おとなしくしているんだよ?」
と言うと、カエル顔の医者は部屋から出て行った。





そんなこんなで病室にひとりな上条である。
「うだー。暇だー」
有り体に言えば、上条は時間を持て余していた。
あれから見舞いの客はひとりとして来ず、何もない病室でじっとしていなくてはならなかった。
上条は知らないことだが、昨日と一昨日――つまり、上条が寝ている間――に、はらぺこシスターに巫女さん、おでこ娘に、電撃娘、聖人、おしぼり娘等々がお見舞いに来ていて、一悶着あったことをここに記しておこう。
ちなみに、はらぺこシスターはちっちゃい先生のうちにお泊り中である。
そして先程、上条が部屋からこっそり抜けだそうとしたところ、病室のスピーカーから『動いたら駄目だよ? 言ったと思うけど、君はいちおう重傷なんだからね?』とカエル顔の医者の声が流れ、釘を刺された。
(な、なんでわかったんだ?)
上条は戦々恐々としていたが、実は上条の首に提げられている名札には特殊なセンサーがついており、上条がベッドから離れるとナースセンターへ連絡されるように設定されていたのだ。 さすがは学園都市、ハイテクである。
「もうこの際、土御門でも青ピでもいいから誰か来ねぇかなー」
上条はしばらくベッドの上でゴロゴロしていたが、
「くそう、こうなったら普段は味わえないベッドの感触を十分に味わってやるー!!」
と言って、ふて寝じゃー、という風に枕へとダイブした。
上条は、しばらくベッドのふかふかを味わっていたが、いつの間にか瞼が重くなってくるのを感じた。
(だはー。ひさびさのふかふかなベッドで心地よい眠気がー……。暇だし、このまま、寝る、か……)
上条は、睡魔に逆らおうとはせず、身を任せた。





そんなこんなで病室の外である。
そこにいたのは制服姿の姫神秋沙だ。
今日は学校帰りであるため、さすがに巫女服ではないようだ。
「今日は。私が。一番乗り」
普段はあまり感情が表情に表れない姫神の顔がわずかにほころんだ。
病室のドアを開けて中に入ると、上条はベッドで寝ていた。
姫神はベッドの近くまで近づくと、そばにあった椅子の上に腰かけ、そのまま上条の寝顔を見る。
「む。いつもとは違って。かわいい。かもしれない」
そんなことを言いながら、しばらく上条の寝顔を堪能していた姫神だが、ふいにきょろきょろと周りを見渡した。
そして、今度は布団からはみ出していた上条の右手を見つめる。
「……ごくり」
しばらく見つめたあと、姫神は手を伸ばし、きゅっと上条の右手を自分の両手で包みこんだ。
「うーん……」
びくり。
一瞬上条が起きたのかと思い、びっくりした姫神だったが、どうやらただの寝言のようなだ。
安心した姫神は、今度は上条の右手をそっと抱きしめた。
姫神の顔にわずかに朱に染まる。
「この右手が。私を助けてくれた」
愛おしそうにかき抱く。
「でも。誰かを助けるたびに。君が。怪我をしてくる」
姫神の顔が曇り、右手を抱く力が強まる。
「これは。自分勝手なわがまま。だけど。君には。怪我をしてほしくない」
大切なひとだから、元気でいてほしい。
「でも。そのわがままのために。君を。止めることは。できない」
自分も、そうやって救われたひとりだから。
姫神はこうやって見舞いに来るだけしかできない。
自分を苦しめてきた忌まわしい能力も、彼の助けにはならないから。
「それが。とっても。悔しい」
むにゃむにゃ、と上条が何か呟く。
姫神が耳を寄せると『ま、待てインデックス。あともう少しだか――ぎゃあああ』とか『お、ビリビリいたのかって、うわっ』と言っているのが聞き取れた。
どうやら上条当麻という人間は、夢のなかでも不幸らしい。
「こんなときぐらい。私だけを。見てくれても。いいのに」
姫神は怨念の籠った視線を上条へと送った。
「やっぱり。私。影が薄い?」
上条の周りにいる個性溢れる女性たちを思い浮かべた姫神が、どんよりとしたオーラを纏い始める。
しかしすぐに気を取り直すと、
「でも。今だけは。私だけを。見てほしい」
そっと上条の顔に自らの顔を近づる。
自分と上条以外は誰もいない病室。
目の前にあるのは、大好きな、そして大切なひとの顔。
長い睫毛を震わせ、白磁のような肌を真紅に染めた姫神は、ゆっくりと――しかし、確実に――顔を近づけていく。
頬にかかった、いかにも和風な長い黒髪を払い、上条の吐息が唇にぶつかるところまで来ると、一旦動きを止めた。
しかしそれも一瞬のこと、姫神は再度動き始める。
目と閉じる前に上条の目が開かれたような気がしたが、構うものか。
そして、上条と姫神との距離がゼロになった。





目が覚めた瞬間にまず目に入ったのが、クラスメイトの顔。
何故かやけに大きく見えて、睫毛が長いなーとぼんやりと思った。
しかし、次の瞬間には唇に当たるやわらかい感触。
続いて甘い匂いが鼻腔をくすぐった。
「ん……」
やわらかい何かが離れていく。
そしてそれが誰であるか気づいた瞬間、上条は覚醒した。
「ひ、ひひひひ姫神、さん? な、ななな何をしてるんでせう?」
頬をほんのりピンクに染めながら、ほう、とどこか色っぽい吐息をするクラスメイトに尋ねる。
(き、キスだよな。接吻だよな。なんだって姫神が……?)
「わからない?」
ちょっと憮然とした姫神に、
「あ、ああ」
と答えたら、
「君って。わかってはいたけれど。本当に。鈍感」
なんだか貶されたような気がした上条である。
「だけど、上条さんにはなにがなんだか――」
「私は。君が。好き」
上条の言葉を遮り、姫神が口を開く。
ひとつひとつ、想いを込めて、言葉を紡ぐ。
「へ? え、ええ!?」
「だから。私は。君のことを。愛してる」
まだ状況を把握しきれていない上条に姫神が言い放つ。
さすがの上条も、姫神の目が真剣な色を帯びているのに気づくと、じっと姫神を見つめた。
安易に答えは出すべきではない。
相手が真剣ならなおさらだ。
上条は黙って、自分の気持ちを確かめるために、思考の海に沈んでいった。





キスをした瞬間、少し後悔した。
上条に気付かれてしまったのだ。
上条は何が何だかわかっていないようだったが、そのことが胸にずくん、と響いた。
(このままだったら。誤魔化せる。でも。それは。嫌)
胸が痛い。心が軋んでいる。理性が止まれと叫んでいる。
(私は。こんなにも。君を。想っているのに)
「私は。君が。好き」
気づいたら口から言葉が出ていた。
だが、不思議と後悔は感じなかった。
なのに上条はまだ呆けているようだった。
「だから。私は。君のことを。愛してる」
(いい加減。頭にきた)
だから、きっぱりと断言してやる。
姫神は上条の目に真剣な色が帯びたのを見て、ほっと息を吐いた。
しかし、上条は返事をするのでもなく、黙って姫神を見ているだけである。
少し不安になってきた。
もともと望みを持っていたわけではなかったが、それでも断られたら立ち直れないかもしれない。
姫神は、上条が自分に致命傷を与える前に声をかけようとして、
「なんだ、答えなんてとっくに出ているじゃないか」
彼に抱きしめられた。





上条当麻は助けを求める者には、必ず手を差し伸べる人間である。
それ故に、非日常に巻き込まれることが多い。
そんな彼にとって、学校は、かけがえのない日常である。
土御門や青髪ピアスと馬鹿を言ってふざけあい、そのことで吹寄にしばかれたり、小萌先生に叱られたり。
そのすべてが愛すべき日常である。
だけど、そのなかには、必ず、ひとりの少女がいた。
物静かで表情に乏しい、だけど料理が上手く、以外と家庭的な、綺麗な黒髪の女の子。
いつしか、教室で目の端で追うようになった。
非日常に巻き込まれることの多い自分にとってはかけがえのない光景。
彼女は、その象徴だった。
「なんだ、答えなんてとっくに出ているじゃないか」
「?」
上条の呟きを理解できず、首を傾げている姫神を、上条はそっと抱き寄せた。
姫神、俺もお前のことが好きみたいだ。もっとも、今さら気づいたんだけどな」
上条が耳元で囁くと、姫神がぎゅっと抱きついてきた。
はらりはらりと涙を零しながら抱きついてくる姫神を、上条は力強く抱きしめた。
姫神?」
「うれしくて。断られるって。思ってた。から」
上条は姫神を一旦離し、彼女の涙を拭った。
「そうか。それならよかった」
そして再度抱きしめた。
二人の体温が混ざり合い、お互いの心音が聞こえる。
しばらくして、また二人は見つめあった。
姫神……」
上条がそっと顔を近づけると、
「待って」
待っていたのは拒絶の声。
「どうした?」
上条が姫神の顔を覗き込むと、
「名前で。呼んで」
顔を真っ赤にした姫神が、消え入りそうな声で呟いた。
それを聞いた上条も、顔を赤くしたが、誓いをたてるかのように囁いた。
「ああ。愛してるぜ、秋沙」
そして、今度は上条から。
――――彼らの距離はふたたび、ゼロになった。

Fin



あとがきはこちら
http://blogs.yahoo.co.jp/dream_teller_silius/8964335.html